平等院 ~藤原頼通が求めた極楽浄土の世界

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現在、発行されている1万円札。その表の絵柄は幕末・明治の啓蒙思想家・教育者である福沢諭吉(ふくざわゆきち)の肖像であることはご存知ですよね。では、裏の絵柄は? 雉(キジ)? 確かに雉は旧札の絵柄に使われていましたが、2004年11月に発行された現在の1万円札の裏の絵柄は、雉から平等院鳳凰堂(びょうどういんほうおうどう)の屋根に立つ鳳凰像に変えられたのです。

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表の絵柄である福沢諭吉は新しいデザインになっても変えられませんでしたが、裏の絵柄は鳳凰に…。それは当時の日本銀行総裁・福井俊彦氏に「人々に幸せや喜びをもたらすという伝説の鳥が、お札になって世界中に流通すれば素敵なことだ」という思いがあったからだそうです。 今回は世界文化遺産にも登録されている宇治の「平等院(びょうどういん)」の話をしましょう。

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光源氏のモデルとなった人物の別荘

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京都市の南端に隣接する宇治市(うじ)。平安時代半ばに書かれた全54帖からなる長編恋愛小説「源氏物語」の最後の10帖(「宇治十帖」)の舞台でもある宇治は源氏ロマンが今も色濃く残る街ですが、その中心を千年の時を超えて滔滔(とうとう)と流れる宇治川のほとりに、藤原氏ゆかりの寺院「平等院」があります。

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平等院と言えば、10円硬貨の裏にデザインされている建物を思い出す方は多いかと思います。正確にはその建物は「平等院鳳凰堂」なのですが、馴染みがある建物のわりには平等院とは何なのかは案外、知られていないようです。

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平安時代、宇治の地には貴族の別荘(別業)がいくつもあったそうですが、平等院がある場所には世界最古の長編恋愛小説「源氏物語」の主人公・光源氏のモデルだという説のある嵯峨源氏の正一位大納言・河原左大臣の源融(みなもとの とおる)の別荘がありました。その後、その別荘は宇多天皇(うだてんのう)の所領となり、天皇の孫の左大臣・源重信(みなもとの しげのぶ)に渡り、998(長徳4)年に関白・藤原道長(ふじわらの みちなが)が重信の妻から譲り受けることになりました。そして、1027(万寿4)年に道長が亡くなると、別荘は道長の子、藤原頼通(ふじわらの よりみち)に受け継がれ、1052(永承7)年に「宇治殿」と呼ばれた別荘は寺院に改められたのです。これが平等院の始まりです。

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頼通が求めた極楽浄土の世界

翌年の1053(天喜1)年、頼通は西方浄土を具現化した浄土式庭園を造り、その中心に阿弥陀堂(鳳凰堂)を建立し、堂内に平安時代後期の仏師・定朝(じょうちょう)が造った阿弥陀如来坐像を安置しました。因みに「鳳凰堂」という呼称は江戸時代になってからのもので、それまでは「阿弥陀堂」、もしくは単に「御堂(おどう)」と呼ばれていたそうです。

鳳凰堂はその中心に阿弥陀如来坐像が安置された中堂があり、その左右に連なる翼廊、そして背後に繋がる尾廊の4つの建物で構成されています。但し、建物として機能しているのは中央にある中堂だけで、左右の翼廊は言うならば飾りであって建物としての実用性はなく、尾廊も中堂に渡るための単なる通路です。しかし、この左右に広がった翼廊があるために、均整がとれた優美さのある建物になっているのです。鳳凰堂と呼ばれるようになったのも、翼廊が広げた鳥の羽のように見えるためだというのも納得できますね。

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鳳凰堂は2014(平成26)年9月に56年ぶりの修理が終わり、その外観は創建当時の美しい姿に甦りました。落ち着きのある赤茶色の柱に、鈍色(にびいろ)の瓦、そして、中堂の屋根に金色に輝く2つの鳳凰像…。見るものを美しさで圧倒する鳳凰堂は頼通が求めた極楽浄土の世界を現世に具現化されたものです。

人々を苦しみから救う阿弥陀如来

東向きに建てられた鳳凰堂。その中堂の中央正面にある格子状障壁に開けられた丸窓の奥に大きな阿弥陀如来坐像のお顔を拝観することができます。これは鳳凰堂の前に広がる阿字池(あじいけ)を挟んで、対岸から人々は西向きに阿弥陀如来を拝む構図になっているのですがつまり、頼通は阿弥陀如来が存在する極楽浄土は西方にあるという、浄土の世界観をこの平等院で実現させたのです。

当時、疫病が流行り、凶作が続くのは釈迦の教えが効かなくなったからだとして、人々の間には終末感が広まっていました。阿弥陀如来は苦しむ人々を平等に救済すると考えられ、阿弥陀如来がいる極楽浄土に想いを馳せ、ただひたすらに念仏を唱えれば、地獄に落ちずに極楽浄土で生まれ変われると人々は信じていました。頼通は阿弥陀如来坐像をご本尊とする鳳凰堂を安らかな来世を願う場としたのです。

中堂に安置されている国宝・阿弥陀如来坐像は、仏師・定朝によって造られたことが証明されている唯一の作品です。阿弥陀如来坐像は像高が2m80cmほどある金箔の阿弥陀仏で、蓮華の台座に鎮座し、慈愛に満ちた表情で正面を見据えています。

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定朝は複数の木材を使って1つの木像を作り出す寄木造の技法を完成させた人物ですが、その作風はふっくらとした丸い顔に穏やかな表情が特徴で、阿弥陀如来坐像は「仏の本様(ほんよう)」と讃えられ、その後の仏像造りの規範とされました。

浄土芸術の極み

阿弥陀如来坐像の頭上には、精巧な螺鈿(らでん)や金箔によって豪華な装飾が施された天蓋(てんがい)があり、それを囲むように浄土教の根本聖典のひとつ「観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)」をモチーフにした色鮮やかな壁画「九品来迎図(くぼんらいこうず)」が描かれています。

人は臨終すると阿弥陀如来が雲中供養菩薩を連れて迎えに来るとされ、その迎え方は臨終する人がどれほど徳を積んでいるかによって異なります。徳を積んでいる順から、上品上生・上品中生・上品下生・中品上生・中品中生・中品下生・下品上生・下品中生・下品下生の9通りあると言われています。その9通りの迎え方を描いたのが「九品来迎図」なのです。例えば、ランクが一番高い「上品上生(じょうぼんじょうしょう)」の場合、お迎えに仏・菩薩・飛天(雲中供養菩薩)が揃って迎えに来るという豪勢なものですが、一番下のランク「下品下生(げぼんげしょう)」であると、迎えには誰も来ない、つまり、自力で浄土に行くというものです。生きているときの日頃の行いがこんな時にも問われるわけですね。

そして、更に中堂の壁上部には、阿弥陀如来坐像を囲むように52体の菩薩像が南北コの字形に並んでいます。南側に26体、北側に26体に別けられ、それぞれに南1から26、北1から26までの番号が付けられています。すべて雲の上に乗り、中空を飛んでいることから、これらの菩薩像を総じて「雲中供養菩薩(うんちゅうくようぼさつ)」と呼ばれています。この菩薩像も定朝工房で制作されたもので、52体すべてポーズが異なり、舞を舞ったり、楽器を演奏したり、合唱したり、物を持ったりと様々に動きのある姿で造られています。

阿弥陀如来坐像、九品来迎図、そして、雲中供養菩薩…。国宝が並ぶ鳳凰堂・中堂の内部は、まさに浄土芸術の極みと言えるでしょう。誰もが平等という頼通の思想は鳳凰堂・中堂の内部の壁や扉の絵画に表れているのです。

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本物を間近で見ることができるミュージアム

平等院を訪れたら、是非、立ち寄って頂きたいのが、鳳凰堂の南側にある「平等院ミュージアム鳳翔館(ほうしょうかん)」です。

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平等院には1965(昭和40)年に建築された菩薩像、扉絵、梵鐘などの貴重な遺産を収蔵・公開する「宝物殿」がありましたが、老朽化のために建て替えられ、2001(平成13)年に総合博物館として生まれ変わりました。

「鳳翔館」は平等院の庭園の景観を損なわないように、建物の大半を地下に埋まっています。館内に入ると、薄暗い中、自然光と照明の光が効果的に取り入れられ、優しい光が展示物を包んでいます。国宝である鳳凰堂の中堂の屋根に据えられていた初代の鳳凰や鳳凰堂の南側の池の畔に建つ鐘楼に吊されていた梵鐘(「天下の三名鐘」のひとつ。「姿の平等院鐘」「声の園城寺鐘」「勢の東大寺鐘」と呼ばれていた)、雲中供養菩薩像(52体の内の26体)、重要文化財の十一面観音立像など、本物を間近で見ることができます。

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鳳凰堂は芸術の才の集大成!

1933(昭和8)年6月16日、20世紀を代表するドイツの建築家ブルーノ・タウトが平等院を訪れた時、次のような感想を残しています。「すべてが控えめで日本的な親しみを持っている。やはり京都だ! 東京には、このようなものはひとつもない」

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平安時代に盛んだった浄土思想。その世界観を表現した平等院鳳凰堂は、羽を大きく広げた鳳凰の如く、西方浄土を思い起こさせるに華麗な佇まいを今の世も見せています。歌会や書物集めに勤しみ、文化の発展に情熱を注いだといわれる頼通。鳳凰堂はその頼通の芸術の才の集大成なのです。

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平等院:京都府宇治市宇治蓮華116 TEL : 0774-21-2861

(写真・画像等の無断使用は禁じます。)

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