京都怪異譚 その12『北山科の老婆』

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文字や紙が一般的に普及していなかった頃、数々の出来事や事件は、想像や願いなどが織り交ぜられながら、人々の口伝えで世間に広まっていきました。これが、いわゆる「伝説」です。そして、こうして生まれた伝説の中には、能や狂言の題材となった話や、民話を集めた『今昔物語』などの説話集に取り入れられたものも多くあります。これからお話しする怪異譚も、そのひとつです。

家や病院、ホテルなどの建物の廃墟は不可思議なことが起きたり、幽霊が出るといった心霊スポットとされることがよくあります。そういう場所には近づかない方がいいなんてよく言いますが、昔、京都の北山科に、決して立ち入ってはならないとされた場所がありました。

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北山科で遭遇した老婆

昔、京都の堀川辺りに、宮仕えをしている若い娘がいました。両親や親類もなく、親しい知り合いもいないその娘は、「もし、自分が病気にでもなってしまったら、ひとりでどうしたらいいの?」といつも思っていました、

それから暫くして、娘は行きずりの男と関係を持ってしまい、こともあろうに身籠もってしまうのです。娘はこれも我が定めとして、産むことを決意しますが、どこで産めばよいかが分からず、相談する相手もいません。娘は考えた挙げ句、ひとつの決心をしました。「もし、産気づいたら、小間使いの童女を連れて山に入り、どこかの木の下で産もう。そこならば、例え死んでしまっても、誰にも知られることはないし、もし、無事に産むことが出来たなら、子どもは可哀想だが、そこに捨てて、何気ないふりをして帰ってこよう。」

それから、月日は経ち、娘は臨月を迎えました。ある日の明け方、娘は産気がしたので、お産に必要な物を持って、童女とともに、誰にも知られず家を出ました。娘と童女は東へ向かい、鴨川を渡り、粟田山の方へと歩き続けました。そして、更に山深く入り込み、北山科までやってきました。

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辺りは鬱蒼としていて、まだ日は高いはずなのに薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていました。娘は何処で産もうかと場所を探していると、壊れかけた一軒の古い家を見つけました。近づいてみると、人が住んでいるような気配はありません。娘はここで産もうと決めて、家に上がり込みました。

板敷きが所々、腐って抜け落ちている部屋で童女と休んでいると、家の奥の方から、こちらに近づいてくる人の足音が聞こえてきました。「あっ、誰か来る!」と娘が思った途端、引き戸が「ガタガタッ!」と音をたてて開き、白髪の老婆がニューッと入ってきたのです。そして、その老婆は薄らと微笑みながら、「こんなところ娘子が…、どうなされましたかな」と優しい口調で娘に尋ねました。その老婆の言葉に安心した娘は事情をありのままに話すと、老婆は「なんとお気の毒なこと…。わかりました。何も気にせずに、ここでお産みなされ」と言って、娘たちを奥へ招き入れたのです。それから間もなくして、娘は無事に男の子を産みました。

老婆の正体は、なんと!

老婆は産まれたばかりの赤ん坊を優しい目で見ながら、「本当に嬉しきこと…。私はこのように年老いて、ひとり片田舎に住む身。気兼ねすることは何もないので、よければ7日ほど、ここでゆっくりと体を休めていきなされ」と娘に言いました。娘は有り難いことだと思い、老婆の言葉に甘えて、お世話になることにしました。

そして、2~3日ほど経った日のことです。娘が赤ん坊と昼寝をしているところに、老婆がやって来て、赤ん坊をじっと見つめながら、「あぁ、なんてうまそうなんじゃ。これならひとくちでいけそうじゃ」とうれしそうにつぶやいたのです。娘は夢うつつも、老婆がつぶやいたその言葉を耳にしてしまいました。

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それからは、娘は老婆の姿を見るだけで、身の毛がよだつほどゾッとするようになりました。「あのお婆さんは鬼に違いない。このままここにいたら、きっと喰われてしまう。」 そう思った娘はいてもたってもいれず、逃げ出すことにしました。老婆が昼寝をしている隙に、赤ん坊を童女に背負わせ、「御仏様、どうかお助けください」と念じながら、娘はその家から飛び出したのです。

娘と赤ん坊を背負った童女は、やって来た道を必死に走り続け、何とか日が暮れる頃に宮仕えしていた主人の元に戻ることができました。そして、産んだ赤ん坊は、自分で育てることができないので、よその人に預けることにしました。娘とその子どもの命は助かったのです。

廃墟には近づいてはいけない

その後、老婆はどうなったのか、そして、老婆は本当に鬼だったのか…。この言い伝えには老婆のことがわかることは何一つありません。赤ん坊を見て、「なんてうまそうなんじゃ」と言ったことからすれば、鬼であったと考えるべきなのでしょうが、この言い伝えは、老婆が鬼であったかどうかではなく、廃墟となった古い家には、鬼などの物の怪や妖怪が棲み着いているものなので、そういう場所には立ち入ると、恐ろしい目に遭うから、絶対に近づいてはいけないということを戒めるための話なのでしょう。

廃墟という場所は、魔物が棲んでいるかどうかは別として、建物が崩れたり、閉じ込められるなど、命に関わる事故が起きる危険性の高い場所です。そういう意味に於いても、廃墟には無闇に近づいてはいけないのです。近づくと本当に鬼に襲われて、喰われてしまうかも…。

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(写真・画像等の無断使用は禁じます。)

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