京都怪異譚 その16『朱雀門に棲む鬼』

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鬼の住み処、朱雀門

山背国(やましろのくに)の葛野郡(かどのぐん)と愛宕郡(おたぎぐん)にまたがる地に造営された平安京。桓武天皇は10年間住んだ長岡京を捨て、永遠の平和を願い、794(延歴13)年に都を平安京に遷しました。

平安京は東西4.5キロメートル、南北5.2キロの広さで、その中央には南北にわたる朱雀大路(すざくおおじ)がありました。朱雀大路は道幅が28丈(約84メートル)もあったとされ、平安の都を東西に二分するメインストリートでした。

その朱雀大路の北端、つまり天皇が居住する大内裏(だいだいり)の入り口に、朱雀門(すざくもん)と呼ばれる楼門がありました。正面47メートル、奥行き14メートルの石壇の上に建てられた朱雀門は、大きな鴟尾(しび)を空に突き上げた入母屋造りの豪壮なもので、京のシンボルとして、都の人々に親しまれていました。ところが、内裏の荒廃とともに、美麗だった朱雀門も荒れ果ててしまい、盗人や乞食の住み処へと変わっていったそうです。その美の悲しい末路を憐れむことからか、朱雀門には鬼や妖怪などの奇怪な伝説が多く残されています。

朱雀門に伝わる鬼伝説

「長谷雄卿草紙(はせおきょうそうし)」という絵巻物に書かれた話もそのひとつです。重要文化財に指定されている、この絵巻物は14世紀前半の作で、平安時代初期の漢学者、紀長谷雄(きのはせお)を主人公とする奇怪な物語が描かれています。その物語とは…。

雨が強く降る、ある夜のことです。内裏での仕事が終わった中納言・紀長谷雄は、しきりに降る雨の中を家に向かって、ひとり急いでいました。

長谷雄が朱雀門を通り抜けようとしたときのことです。突然、何処からかともなく、ひとりの男が現れ、長谷雄の前に立ちはだかりました。そして、男は長谷雄に「中納言様は双六(すごろく)の名手だと聞き及んでおります。そこで、これから、この門の楼上で、この私と双六の手合わせを願いたいと想うのですが、如何でございましょうか」と言いました。

長谷雄は唐突なことを言われて、戸惑っていると、男は「実は私も、双六には少々、自信がありまして…。もし、私があなた様に負けたら、見栄えも気立ても良い女を差し上げましょう」と言ったのです。そうまで言われれば長谷雄とて、後には引けず、勝負することになりました。

双六勝負は長谷雄の勝ち

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夜を徹して行われた双六勝負は、長谷雄が勝ち続けました。そして、男は負けが続くにつれて、その悔しさから取り乱し、次第に男の様相は醜い鬼の姿に変わっていったのです。長谷雄は怖くなって、逃げようとしますが、体を動かすことができません。恐ろしい思いをしながらも勝負を続け、結局、最後まで長谷雄が勝ち続けたのです。

勝負の決着がつくと、鬼は元の男の姿に戻り、「いやいや、さすがに中納言様。聞きしに勝る腕前、恐れ入りました。では、約束通り、女を連れて参りますので、明日の夜、また、この朱雀門においでください」と言って、長谷雄を帰したのでした。

次の日の夜、長谷雄は半信半疑のまま、朱雀門の前で男が現れるのを待っていました。そして、夜も更けた頃、男は目を疑うほどの美女を連れてやって来たのです。長谷雄はその女のあまりの美しさに我を忘れ、「この女を本当にくれるのか?」と聞くと、男は「もちろん、約束ですから。ただ、ひとつ、お願いがあります。それは、今夜から100日経つまでは、この女に指1本、触れないで頂きたいのです。もし、それが守れなかったら、あなた様は必ずや後悔することになるでしょう」と言い、女を残して去って行きました。

鬼との約束を守れなかった長谷雄

それから、長谷雄は時が経つにつれて、次第にその女が愛おしくなっていきました。そして、80日ほど経った頃、長谷雄はついに我慢できなくなり、「もう随分、日が経った。絶対に100日ということでもないだろう」と思って、女を抱き寄せると、女の体は水に濡れているようだったのです。「これは一体、どういうことなんだ…」と思った途端、その女は水音を立てて崩れてしまいました。長谷雄は嘆き悲しみ、自分の愚かさを悔やみ、苦悶の日々を送りました。

それから、しばらく経った、ある日の夜更けのことです。内裏からの帰り、朱雀門に差しかかったときに、またあの男が現れたのです。そして、大声で「よくも約束を破ってくれたなぁ-!」と言いながら、鬼に姿を変えて、走り寄ってきたのです。

長谷雄はおののきながらも、必死に「北野の天神様、助けたまえ!」と祈りました。すると、天から「哀れな鬼よ、去るがよい」という声が響き、それを聞いた鬼は悲鳴を揚げて、逃げようとしました。その時、長谷雄は鬼に「私が悪かった。だから、あの女を返してくれ!」と叫びました。すると鬼は振り返り、「あの女は、死んだ都の女たちの美しい部分を寄せ集めて造った人間だ。100日経てば、魂が固まり、本物の人間になるところを…。この愚か者めが!」と声をあげて、闇へ消えていきました。

ユーモラスな異界の存在

朱雀門の鬼は、恐ろしいものとして描かれながらも、どこかユーモラスで、人間くさいところがありますが、それは、当時の人たちが、異界の存在に親しみを感じ、共存しようとした表れなのかもしれませんね。

因みに、現在、朱雀門があったとされる場所には「此付近平安京大内裏朱雀門跡」と刻まれた石碑が建っているだけで、朱雀門があったことを示すものは他に何もありません。

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平安京大内裏朱雀門址:京都市中京区西ノ京小堀町

(写真・画像等の無断使用は禁じます。)

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