京都怪異譚 その20『地獄地蔵 ~人を苦しみから救うお地蔵さん』

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地元の人や観光客、修学旅行生で賑わう京都の繁華街、三条寺町。その一角に、たくさんの赤い提灯が訪れる者の心を和ませてくれる「矢田寺(やたでら)」があります。

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この矢田寺は700(文武天皇4)年、奈良の大和郡山にある矢田寺の別院として建立された歴史あるお寺です。ご本尊は816(弘仁7)年に日本で初めて作られたとされる地蔵菩薩。このお地蔵さまは“代受苦地蔵(だいじゅくじぞう)”といって、人々の苦しみを代わって受けてくださる、とても有り難いお地蔵さまなのですが、別名、“地獄地蔵”とも呼ばれています。なんとも凄い名前ですよね。どうして、このような恐い名前が付いたかと言うと…。

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閻魔大王の悩みを解決した満慶上人

平安時代の頃、死者の魂の行き先を天国か地獄かに決める閻魔大王(えんまだいおう)は、世の中に苦しみが蔓延していることに不安を抱き、思い悩んでいました。

暫くして、閻魔大王は受戒(仏の戒めを受けること)を決意し、誰が良いかと、閻魔大王の補佐を務めていた朝廷の高官、小野篁(おののたかむら)に相談しました。すると、篁は「受戒されるのであらば、当代切っての僧侶、大和の矢田寺の満慶(まんけい)が良いかと」と答えました。

閻魔大王は早速、矢田寺に使者を送り、満慶を迎えて、思いの内を話しました。悩みを聞いた満慶は閻魔大王に菩薩戒(ぼさつかい:菩薩の戒め)を授け、大王の苦は無事に取り除かれました。

心が癒やされた閻魔大王は、「お礼をしたいのだが、何がいいか」と満慶に聞くと、「一度、地獄を見てみとうございます」と答えました。閻魔大王は快く承諾し、重い地獄の鉄扉を開け、満慶は大王に案内されて、地獄に入って行きました。

満慶上人が地獄で出会った僧侶とは?

満慶が地獄で目にしたのは、燃え立つ炎で煮え立った巨大な鉄釜に、生前に悪行をした人間が次々と放り込まれ、苦しみのうめき声が響く、目を覆う酷い光景でした。それはまさに地獄絵図…。満慶はその恐ろしさに気が遠くになりそうになっていました。すると、どこからともなく、一人の僧侶が現れ、煮えたぎった湯の中にいる人間を引き上げ、助け出し始めたのです。(※矢田寺が所蔵する『矢田地獄縁起絵巻』〔重要文化財〕にはその様子が描かれています。)

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満慶がその僧侶に話しかけると、「現世に戻ったら、私の像を作りなさい。そして、その像を祀り、私と縁を結ぶのです。そうすれば、命あるものすべてを救うことができる」と答えたのです。その僧侶こそが地蔵菩薩だったのです。

地獄から現世に戻った満慶は、地獄で出会った地蔵菩薩の姿を刻み、京都の矢田寺に安置し、祀りました。

地獄地蔵という名には恐いイメージがありますが、実のところ、慈悲深いお地蔵さんなんですね。

人々を苦しみから救ったお地蔵さん

その後もこの地蔵菩薩は多くの人を救ったと言われています。例えば…。

平安時代の終わりの頃のことです。狩りを得意とするひとりの青年がいました。何不自由なく、幸せに暮らしていましたが、ある日、優しかった父が突然、病死し、母が継父を迎えたことから、この青年の人生は辛いものへと変わってしまいました。青年は毎日、継父からいじめと暴力を受け続けたのです。それに耐えきれなくなった青年はついに継父を殺そうと決意しました。「あの憎い男さえこの世からいなくなれば…」

青年は狩装束を纏い、刀を手にして母と継父の寝室に入り、暗闇の中、刀を振り下ろし、ズバッと一刀のもとに首を斬り落としました。「やった!」 ところが、その斬り落とした首は優しい母の首だったのです。「あぁ、母上…。なんとしたことを…」

継父は青年に襲われることを事前に察知し、家から逃げていたのです。誤って母を殺してしまった青年は懺悔のために毎日、地蔵菩薩にお参りし、救いを求めました。しかし、青年はその甲斐もなく、病に倒れ、地獄に堕ちてしまいました。ところが、青年の前に地蔵菩薩が現れ、青年は地蔵菩薩の力によって、現世に甦ったのです。その後、青年は母の供養のために、毎日、地蔵菩薩に参り続けたそうです。

京の町を焼き尽くしたと言われる「天明の大火」の時には町へ躍り出て、飢えた人々を救ったと言われる地蔵菩薩。矢田寺には今も救いを求める参拝者が後を絶えません。

矢田寺:京都市中京区寺町通り三条上ル523 TEL : 075-241-3608

(写真・画像等の無断使用は禁じます。)

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