京の七不思議 その17『上賀茂神社の七不思議』

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京都最古の神社

世界文化遺産にも登録されている、京都最古の神社「上賀茂神社(かみがもじんじゃ)」。“賀茂別雷大神(かもわけいかづちのおおかみ)”を御祭神として祀るこの神社は、678年、天武天皇の御代に現在の社殿の基が造営されたとされていますが、実はそれよりも以前にこの地には、集落が作られ、農耕や狩猟によって多くの人々が豊かな生活を営んでいました。その中で、人々は雷や大雨などの自然に対する畏怖や五穀豊穣を願うために、社を建て、神様を祀るようになったことが、この上賀茂神社の真の始まりです。

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今回は、豊かな自然に囲まれ、今も昔と変わらぬ姿の「上賀茂神社」に伝わる七不思議の話をしましょう。

上賀茂神社の七不思議とは!?

上賀茂神社の七不思議:その1「物言わぬ神職」

「物言わぬ神職」と聞いて、何もしゃべらない、無愛想な神主さんのことかと思ったのですが、そうではありませんでした。これは、上賀茂神社に限ってのことなのかどうかが定かでありませんが、明治の頃、上賀茂神社では修行中の神主は、一切声を出さず、無言で神様に参拝するという慣わしがあったことから、神主のことを“物言わぬ神職”と言ったそうです。

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神主は五辛(ニンニク、らっきょ、ネギ、ニラ、ひる)と肉・魚などの食物を口にせず、酒を断ち、行いを慎み、不浄を避け、心身を清めるという、いわゆる“精進潔斎(しょうじんけっさい)”の状態で修行を行うわけですから、当然、俗世の人と言葉を交わすことはできなかったのです。その修行中の神主のことを“物言わぬ神職”とは、なかなか上手い言い方ですね。

上賀茂神社の七不思議:その2「社殿と鳥居の向き」

上賀茂神社には摂社・末社(一神社内の本社に付属する小社のこと)が数多くあって、境内・境外を合わせるとその数は24社もあります。そのうち、境内には摂社は6社、末社は9社の合計15社あるのですが、不思議なことにそれらの社殿や鳥居の向きがそれぞれ異なって配置されているのです。

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摂社・末社が数ある場合、一定の敷地にかたまって同じ向きで建てられるのが一般的ですが、上賀茂神社の摂社・末社はどれひとつとして同じ向きをしておらず、バラバラ。由緒ある神社だけに、適当にとか、無計画に建てられたとは考えにくく、きっと何か意味があってのことだとは思うのですが、今も謎のまま…。まさに、不思議なことです。

上賀茂神社の七不思議:その3「樟橋(くすのきばし)」

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本殿の裏手から、境内に流れ込む小川があります。鴨川から分流するこの小川は、「御手洗川(みたらしがわ:下鴨神社にも同じ名前の川がある)」と呼ばれ、葵祭の時に十二単に包まれた斎王代や女官たちが手を洗い、身を清めます。その御手洗川に架かる小さな橋が「樟橋」です。

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この橋は2枚の石板で造られている石橋なのですが、橋の名称は“樟”と、木の名前が付けられています。実はこの石板は大木だった樟が化石になったものだと言われているのです。そう言われてよく見ると、確かに木の木目のような模様があるようにも…。この橋を渡ると長生きするという言い伝えがあって、「長寿橋」という名前でも呼ばれています。一見、地味で、見過ごしてしまいそうな橋ですが、伝承が遺されている橋なのです。

上賀茂神社の七不思議:その4「賀茂の勝手火(かってび)」

上賀茂神社の東隣に、昔ながらの風情が残る「社家(しゃけ)」の町が広がっています。

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「社家」とは、神職を世襲してきた家系、つまり、代々神主を務めてきた家のことです。今も30数件の社家と町屋があり、まとまったひとつの町として残っているのは全国でもここだけです。社家の家並みとその庭園の緑、そして町の中を流れる明神川が一体となった景観美から、京都市の「上賀茂伝統的建造物群保存地区」、そして、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されています。

上賀茂の社家は明神川沿いに土塀を巡らせ、一軒ごとに石橋が架けられていて、その石橋を渡って家の敷地に入ります。家には明神川の水が引き込まれていて、神官たちはその水で禊ぎ(みそぎ)を行っていたそうです。

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そんな上賀茂の社家には些か妙な言い伝えが残されています。それは、社家の家では来客には料理(煮物)を出さず、社家の人が社家以外の家に行ったときには料理を遠慮なく食べ、食べた後は賀茂川で身を清めて帰宅したと言われています。これを身勝手な行いだということから、「賀茂の勝手火」と呼ばれています。

実はこれには理由があって、上賀茂神社が火災に遭うことを最も恐れた神官たちは、火災を引き起こす原因となる火を自分の家の中ではできるだけ使わないという習慣から行われたことなのだそうです。その意味を知る京の都の人たちは、「社家の人間はあつかましいから、他人の家で料理を食べた」なんて言う人は誰もいなかったとか…。これも京都らしいことなのかもしれませんね。

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上賀茂神社の七不思議:その5「大田の沢の杜若(かきつばた)」

上賀茂神社から東に約500メートルほどのところに、上賀茂神社の境外摂社のひとつ、「大田神社(おおたじんじゃ)」があります。

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上賀茂神社やこの大田神社がある場所は、もともとは沼地であった所を氏族の賀茂氏によって開墾されたと言われており、今も大田神社の東側には「大田の沢(おおたのさわ)」と呼ばれる、約2,000平方メートル(30m×70m)の広さの沼地が残っています。

この沢には5月になると、約25,000株もの杜若(カキツバタ)が咲き、多くの人の目を楽しませてくれています。大田の沢は日本三大杜若の自生地のひとつで、野生種の杜若は希少価値が高く、国の天然記念物に指定されています。

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この沢の杜若は古代より群生していたようで、『千載和歌集(せんざいわかしゅう)』の編者で知られる、平安時代の歌人・藤原俊成(ふじわらのとしなり)も大田の沢の杜若を歌に詠んでいます。

「神山や 大田の沢のかきつばた ふかきたのみは 色にみゆらむ」(上賀茂神社の御降臨の山である神山(こうやま)の麓にある大田の沢の杜若に深く願う恋(いろ)は、その杜若の色のように、なんて一途で美しく、可憐なんだろう)

一瞬にして沼一面を淡い紫色に染める杜若の花を、俊成は自分の中に燃え上がる恋心に重ねて読んだのでしょうね。

また、江戸時代中期の画家・尾形光琳(おがた こうりん)も、大田の沢の杜若をモチーフにして『燕子花図(かきつばたず)』という屏風絵を描いています。

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ところで、この「大田の沢の杜若」は七不思議のひとつに数えられているわけですが、それは、この沢に手を浸けると、手が腐るという言い伝えが残されているためです。実際に手が腐るかどうかはわかりませんが、恐らくこの言い伝えは、美しく咲く杜若を無闇に持ち帰らせないための戒めの意味で言われるようになったのでしょう。古くから、現代に渡って、大田の沢の杜若は人々を魅了し続けているのです。

上賀茂神社の七不思議:その6「賀茂の神能」

能楽の演目に『賀茂』という作品があります。これは上賀茂神社にまつわる神話を題材にしたもので、神社の縁起を勇壮に表現された作品として、古くから好まれている能です。

前半は、女性のシテが気品ある雰囲気を醸し出しながら神話を語り、後半は、天女に変わった御祖神がおおらかに舞い、別雷大神(わけいかづちおおかみ)が舞台を駆け回るという、能の中でも見どころの多い演目ですが、この演目を上賀茂神社の境内で演じると、能楽師が雷に打たれて命を落とすという言い伝えがあり、災いを避けるために『賀茂』は上賀茂神社で上演することは禁じられているのです。御祭神の賀茂別雷大神は、日本の伝統芸能であっても、自分のことを人前で演じられるのは気に入らないのかもしれませんね…。

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上賀茂神社の七不思議:その7「御扉の狛犬」

境内の北側の奥に、御祭神・賀茂別雷大神を祀る本殿がありますが、その本殿に向かって左側に、本殿と同じ規模、同じ形状の建物が建っています。この建物は「権殿(ごんでん)」と呼ばれ、非常時で本殿が使えなくなった時や建て替える時に、代わりに神儀などを行うための場所で、本殿のサブとして機能する建物なのです。

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同じ造りなのは建物だけではなく、調度品までも本殿と同じ造りになっています。

本殿と権殿の扉の脇の壁には、狩野派による狛犬が描かれていますが、言い伝えによると、応仁・文明の乱(1467-1477)頃、都で悪事を働いていた狛犬を本殿と権伝の扉に封じ込めたものだとされています。しかも、描かれている狛犬は、本殿に鎮座している狛犬の“影”だとか…。何かよくわからない話ではありますが、それがまた不思議なことだということなのでしょう。

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上賀茂神社(賀茂別雷神社):京都市北区上賀茂本山339 TEL : 075-781-0011

(写真・画像等の無断使用は禁じます。)

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