京都怪異譚 その22『形見の髪 ~清水寺の観音様にまつわる話』

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不思議な話が伝わる清水寺の観音様

東山にある音羽山の中腹に、778(宝亀9)年に延鎮上人が開山し、798(延暦17)年に坂上田村麻呂によって創建された清水寺。世界文化遺産に登録され、いつの季節も訪れる人で賑わっていますが、“清水の舞台”で有名な本堂の東に立っている観音様にはある不思議な話が言い伝えられています。

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親切な老婆との出会い

昔、京の東山に若くて、器量良しの女がいました。しかし、その女は身寄りはなく、食べることもままならぬほど、貧しい暮らしをしていました。

ある時、女は「独り身の私がこうして生きていられるのも、観音様のお陰…」と思い、それからは毎日、朝と夕暮れに清水に詣で、観音様に手を合わせるのが日課になりました。

ある日のことです。清水寺へ参る坂の途中で、女は見知らぬ老婆に出会いました。老婆は女に「毎朝、毎夕、ひとりでお参りをしておられるようだが、知り合いの人は誰もおらぬのか?」と尋ねました。女は「私には知り合いなど誰ひとりおりません」と答えると、老婆は「それはお気の毒なこと…。これからは、私の庵で食事をしてからお参りすればよい」と自分の庵に女を招き入れ、食事をふるまったのです。

それからは、女は老婆の庵でご馳走になっては清水にお参りするようになりました。しかし、女の貧しさは増すばかりで、次第に着ている着物もボロボロになってしまいました。それでも女は、自分の不運を顧みては観音様への信仰心を深め、お参りをし続けてのでした。

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運命の男との出会い

それから数年経ったある日の清水からの帰り道のことです。女は急に気分が悪くなり、愛宕寺(現:六道珍皇寺)の三門の脇で休んでいました。すると、そこに馬に乗った男が通りがかり、女の様子を見て、話しかけてきました。

男「どうされましたか?」 女「清水さんから帰る途中なのですが、ちょっと気分が悪くなって…」 男「それなら、そこにある小屋で休んだ方がいい」

男は小屋の扉をこじ開けて、女を連れて中に入り、結局、女はその通りがかりの男と一夜を過ごしたのでした。

翌朝、男は「あなたとこのようなことになったのは、前世からの因縁だと思います。私はこれから旅に出ますが、私といっしょに行きましょう」と女に言いました。女は「私は誰ひとり身寄りのいない身で、都を離れて何処か遠くへ行きたいと思っていました。だから、連れて行って貰えるのは嬉しい限りでございます。ただ、気掛かりな人がいて、その人にご挨拶をしてから行きたいのです。その人とは、この坂を二町ほど上がったところにある庵に住んでいるお婆さんで、ここ数年ほど、とても親切にしてもらったのです」

老婆との別れ

男は、町で着物を買い、女を小綺麗にして、一緒にその老婆の庵に向かいました。

老婆はふたりを快く迎え、女は男とのいきさつを老婆に話しました。そして、最後に「これから、この人と遠い国に旅に出ることに決めたので、その前に、お婆さんにご挨拶をしたいと思い、お訪ねしたわけです。本当に長い間、親切にして頂き、ありがとうございました。この先、また会えるかどうかはわかりませんが…」と言って泣きました。

老婆は、女に「私はきっとこんな日が来ると思っていましたよ。お参りをしていれば良いことが必ずあるのです。本当に良かった」と言いました。

そして、女は何か形見をということで、自分の髪を一房切って、老婆に渡しました。老婆はその女の情け深さに涙を流し、自分の指先にその髪を数本、巻き付けて言いました。「この先、たとえ生きて会うことが出来なかったとしても、この指だけは決してなくなることはないでしょう。私に会いたくなったら、この髪を巻いた指を目印に訪ねてきておくれ」 ふたりは別れを惜しみ、そして、女は男と共に旅立っていきました。

老婆の正体

その後、女は一緒に旅立った男が陸奥守(むつのかみ)の御曹司であったことから、裕福に暮らし、幸せな日々を送りました。それから、4年。女は男と共に、再び、上京することになり、京に着くと早速、老婆に会いに庵に向かいました。ところが、老婆の庵があった場所には庵はなく、そればかりか、庵があった痕跡すらなく、藪が鬱蒼と生い茂っていたのです。

「なんて、悲しいこと…。しかし、一体、これはどういうことなの…」 そう思いながら、清水へお参りをした後、観音様の姿を見たとき、唖然としたのです。それは、観音様の指に、形見として老婆に渡した自分の髪が巻かれていたからです。女はその意味を瞬時に悟りました。「私を助けるために、観音様が老婆の姿になって現れてくださったのね…」 女は感謝の気持ちから、声をあげてその場に泣き崩れました。

それからも、女は、何ひとつ不自由なく、男と幸せな一生を過ごしたそうです。

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清水寺:京都市東山区清水1-294 TEL : 075-551-1234

(写真・画像等の無断使用は禁じます。)

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