京都怪異譚 その9『鵺(ぬえ)~四獣が合体した怪物』

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千年の都、京都には怪しいモノが現れ、人々を襲ったとされる言い伝えがいくつも残されています。その怪しいモノのひとつに「鵺(ぬえ)」という怪物がいました。1981(昭和56)年に公開された、横溝正史原作の「悪霊島」という映画のキャッチコピー、『鵺が鳴く夜は恐ろしい…』を記憶されている方もいらっしゃると思いますが、このキャッチコピーにある鵺はツグミの仲間である“トラツグミ”という鳥のことで、京都に出没した鵺はそんな可愛らしい生き物ではなく、まさに怪物と呼ぶのがふさわしい様相をした生き物でした。鵺とは、頭がサル、胴体がタヌキ、手足がトラで、尾がヘビというように、いろいろな獣が合体した奇っ怪な怪物で、「平家物語」や「源平盛衰記」、「十訓抄」などにも登場する怪物なのです。

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源頼政の鵺退治

「平家物語」には、鵺を退治した話が書かれています。

平成末期のことです。毎夜、丑の刻(午前2時頃)になると、東三条の森から不気味な暗雲が立ち込め、天皇が住んでいる内裏を覆い、気味の悪い鳥の鳴き声のような声が響き渡りました。その度に、当時の帝、近衛天皇はひどく怯えたため、公卿たちは、祈祷でその怪異を収めようとしましたが、その甲斐もなく、近衛天皇は病に伏せってしまいました。そこで、公卿たちは最後の手立てとして、弓の名手であった源頼政に得体の知れぬ魔物を退治するように命じたのです。

早速、頼政は破魔の鏑矢を用意し、従者の猪早太(いのはやた)を連れて、御所に向かいました。その日の夜、丑の刻になると、またしても艮(うしとら)の方角に暗雲が湧き上がってきました。そこで、頼政は暗雲めがけて、「南無八幡大菩薩!」と弓の神様の名を唱えながら、1本の矢を解き放ったのです。すると、この世のものとは思えない、恐ろしい悲鳴のような声とともに、天から異形の獣、鵺が現れたのでした。

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頼政の矢に当たった鵺は、地面に落ちてきました。そこで、猪早太が太刀で止めを刺し、鵺は退治されたのでした。頼政は死んだ鵺をバラバラにして、笹の小舟に乗せ、鴨川に流したといいます。

その後、近衛天皇の病は治り、褒美として頼政は天皇から「獅子王」という名の太刀を賜りました。その太刀は、後に徳川家康から家臣に渡り、明治になって、明治天皇に献上され、今は、東京国立博物館に収蔵されています。

鵺は本当にいた!?

京都市上京区にある二条城の北側に「二条児童公園」という公園がありますが、鵺が天から落ちてきた場所が、この二条児童公園の辺りだと言われています。また、ここには頼政が鵺を射た鏃(やじり)に付いた血を洗い清めたとされる「鵺池(ぬえいけ)」と呼ばれた池もあったそうですが、現在はその池はなく、そこには鵺大明神を祀る祠と鵺池の由来を記した碑が建てられ、鵺という怪物の存在を今に伝えています。

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鵺と呼ばれた実在の人物

ところで、近代において、鵺と呼ばれた人物がいたことはご存知でしょうか? その人物とは2013年のNHK大河ドラマ『八重の桜』の主人公の新島八重(にいじま やえ)。

同志社英学校(後の同志社大学)の創立者である新島襄の奥さんであった八重は、先駆的で時代を先取った生き方をした女性で、それは当時の世の女性観からはかけ離れたものでした。そのため、八重は“悪女”とか“烈婦”などと世間からいろいろと形容され、“鵺”と呼ばれたこともあったのです。そう呼んだのは、当時、同志社英学校の生徒であった徳富猪一郎、後にジャーナリストとして名を馳せた徳富蘇峰(とくとみ そほう)です。

新島夫妻は日常生活の中で西洋のしきたりであるレディーファーストを実践していましたが、それは世間にとって奇異な行動にしか思われなかったのです。蘇峰は特に八重が夫を「襄」と呼び捨てにしたり、夫より先に人力車に乗り込んだりする行動が気に入らなかったようです。そんなある日、八重が出席する演説会で、日頃の不満を募らせた蘇峰はついに「この会場の中に、頭と足は西洋、胴体は日本の鵺がいる」と言い放ったのです。それは八重が日頃、和服を着ながらも、西洋の帽子を頭に載せ、靴を履くという、和洋折衷の姿だったことを、いろいろな獣が合体した怪物“鵺”に喩えたのです。それ以後、八重は鵺のイメージをずっと引きずったと言われています。

鵺は今も生き続けている…

街を歩いていると、たまに奇抜な恰好をした人に出会うことがあります。それもファッションだと言ってしまえば、それまでですが、見方のよっては奇異に見えることがあります。もしかすると今も、鵺は京都の街のどこかに生き続けているかもしれませんね。

鵺大明神:京都市上京区智恵光院通丸太町下ル主税町 

(写真・画像等の無断使用は禁じます。)

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