おつうさんは実在した!? ~大原の里に伝わる「おつう伝説」

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京都・洛北、比叡山の麓に広がるのどかな田園風景。ここは大原の里。三千院や寂光院といった人気のある寺院があることから、もともと観光客が多く訪れる場所ですが、この大原の里が日本中に知られるようになったのは、ちょっと古いことですが、1965年にデューク・エイセスが歌った「女ひとり」が大ヒットしたからではないでしょうか。

♪京都 大原 三千院 恋に疲れた 女がひとり 結城に塩瀬の 素描の帯が 池の水面に ゆれていた 京都 大原 三千院 恋に疲れた 女がひとり・・・

この曲を耳にすると、ひとりで大原の里を旅する女性の姿が浮かんできますが、この大原には、ある女性の悲しい伝説が残っています。今回は大原の里に今も語り継がれる「おつう伝説」の話をしましょう。

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殿様を恨んで、大蛇に変身した娘の話

大原の里には日本海側の若狭と京都を結ぶ1本の幹線道路が通っています。若狭で捕れた鯖(さば)を京都に運んだことから“鯖(さば)街道”と呼ばれるこの道は、昔から、多くの人が行き交った街道でした。その昔のことです…。

大原の里におつうという美しい娘が住んでいました。ある日のこと、そのおつうは、京都から若狭に帰る途中に大原の里に立ち寄った若狭の殿様に見初められてしまいました。これは、まさに玉の輿!と、大喜びのおつうは殿様と一緒に、若狭へ向かったのでした。それから暫くは、幸せに暮らしていましたが、おつうが病に伏した途端、殿様の熱が冷め、殿様の寵愛を失ってしまいました。そして、ついに大原の里に帰されてしまったのです。

大原の里で悲嘆に暮れる日々を過ごしていた、そんなある日のこと、おつうは殿様が大原の里を通ることを知り、ひと目逢いたいと思ったのですが、病身のため、思うように体が動きません。それを悲観したおつうは、大原川(高野川)の女郎ヶ淵(じょろうがぶち)という、何とも凄まじい響きの名の淵に身を投げてしまうのです。すると、殿様への思慕の強さからか、それとも恨みからか、おつうは大蛇に変身してしまうのです。

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やがて、若狭の殿様は上洛のために、再び、大原の里を通ることとなり、それを知った大蛇に変身したおつうは殿様の行列を追いかけて、大原川を下りました。そして、花尻橋(はなじりばし)のたもとまで来たとき、川から飛び出して、殿様に襲いかかったその時、ひとりの侍が大蛇になったおつうの前に立ちはだかり、返り討ちにしてしまいました。大蛇は無残にも首と尾を切り落とされ、殿様への恨みを持ったまま、無念の死を遂げたのでした。

ところが、その日から、大原の里には雷鳴轟く、大雨が降り続き、どこからともなく、悲鳴のような不気味な声が里中に響き渡るようになったのです。里の人々は、これはおつうの恨みだとして、切り落とされた大蛇の首は「乙が森(おつがもり)」に、尾は「花尻の森(はなじりのもり)」にそれぞれ埋めて供養しました。すると、不思議なことに大雨は止み、不気味な声もしなくなったのです。

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「おつう」とは一体、何者なのか?

「おつう伝説」は大原では広く知られている昔話ですが、この話、蛇になった清姫が僧侶の安珍を焼き殺す「道成寺」によく似ていますよね。実は、現在伝わっている「おつう伝説」の内容には諸説あって、いろいろな伝承が集合されたものだと考えられているのです。

1702(元禄15)年に編纂された「山州名跡志(さんしょうめいせきし)」という文献に、夫を恨んだ妻が池に身を沈め、大蛇になって夫を襲うという「大原物語」が紹介されており、この物語が「おつう伝説」の元ネタではないかとされています。ただ、この「大原物語」には「おつう」という名前はどこのも出て来ず、「京ナル女」と書かれているだけなのです。

また、1916(大正5)年に設置された、「おつう伝説」と深い関わりのある「乙が森」の石碑にも「おつう」という名前はありません。そして、もっと驚くことに、「おつう」は江戸後期から明治にかけて大原上野町に住んでいた実在の女性だという話もあるのです。

「おつう」とは一体、誰なのでしょうか…。話の展開にいろいろなバージョンがあり、それが「おつう」という女性に集約され、物語自体もまた、そまざまな要素で変化し、成長していく…。伝説というものには、そういう不思議さ、面白さがあるから、いつの時代も人の心を惹き付けるのでしょうね。

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(写真・画像等の無断使用は禁じます。)

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