京都の街中には都会の喧噪を忘れさせてくれる癒やしの空間、“原生林の森”があります。その森とは「糺ノ森(ただすのもり)」。今回は世界文化遺産にも登録されている「糺ノ森(ただすのもり)」の話をしましょう。
街の中にある、広大な原生林の森
“憂き世をば 今ぞ別るるとどまらむ 名をば糺すの神にまかせて”と『源氏物語』にも謳われている糺ノ森は、下鴨神社(賀茂御祖神社)の境内に広がる原生林です。かつては495万平方メートル、東京ドームの約125倍の面積がある、とてつもなく広大な原生林の森だったのですが、応仁の乱などの中世の戦乱や明治初期の上知令による寺社領の没収などを経て、その面積は現在の12万4千平方メートルまで減少しました。それでも、東京ドームの約3倍の面積があるわけですから、街の中にある森としては、やはり広大なものです。
糺ノ森は古代山城国・山代原野の原生林の植生を残す、唯一の森林です。樹齢200年から600年のケヤキやムク、エノキなど約40種の樹木が約600本も生い茂っていることから、国の史跡に指定されています。
下鴨神社の楼門に向かって、参道が糺ノ森の中を通っているのですが、そこを歩いていると、ひんやりとした空気と美しい原生林に包まれ、神秘的な気分になってきます。森には4つの小川が流れていて、初夏になるとホタルの飛び交う姿を見ることができます。京都の街の中に、こんなにも自然に満ちた場所があるとは、本当に意外ですね。
「糺」とは何を意味するのか
ところで、「糺ノ森」の“糺”は普通では読めない字ですよね。どうして、このような字を使ったのか気になるところですが、この「糺」の語源は「直澄(ただす)」と言われ、これには清水の湧く場所という意味があり、同じ音の「糺」に置き換えたのではないかと言われています。
他にも、糺ノ森がある場所が加茂川と高野川の合流点で、そこが「只洲(ただす)」と呼ばれていたことから、「糺」となったという説や、糺ノ森の南にある河合神社の祭神・多多須依姫命(たまよりひめ)の「多多須」に由来する説、そして、この森には偽りをただす神、「糺の神」が鎮座していると言い伝えられていたことに由来する説など、諸説いろいろあるようです。
神聖な場所、「糺ノ森」
平成に入ってから行われた発掘調査で、糺の森から弥生時代の祭祀土器や居住跡が多数、見つかりました。つまり、ここは平安京が造営されるより遙か昔から、神聖な場所だったということです。「糺の森」で、悠久の時に思いを寄せれば、もしかすると、神々のパワーを感じことができるかもしれませんよ。
下鴨神社(賀茂御祖神社):京都市左京区下鴨泉川町59 TEL:075-781-0010
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