京都には、京都人から「にしき」という愛称で親しまれている市場があります。その市場とは「錦市場(にしきいちば)」。今回は安土桃山時代の頃から京都人の食をまかなう、“京都の台所”と呼ばれる「錦市場」の話をしましょう。
錦市場は京都市の真ん中にあります
錦市場は京都のメインストリートの四条通から、ひと筋北に通っている錦小路通にあります。京都市のほぼ真ん中ですね。
東は寺町通から、西は高倉通までの距離にして約390メートルと、商店街とすれば決して長くはないですが、その間に、鮮魚や野菜、漬け物、乾物といった食材のお店が、所狭しと約130店舗も建ち並んでいます。
錦市場がある錦小路通は平安時代になってから付けられた通り名で、それまでは、武具や甲冑といった具足を売るお店が並んでいたことから、「具足小路(ぐそくこうじ)」と呼ばれていたそうです。その後、具足小路がなまって “くそ小路” と、ちょっと下品な言われ方をしていたこともあったようですが、いつしか、「錦小路」と呼ばれるようになりました。その由来には、時の後冷泉天皇が「錦小路」と命名したとか、四条通の南にある「綾小路」に対して、「錦小路」と呼ばれるようになったなど、諸説あるようです。
錦市場は今でこそ、いろいろなお店がありますが、元々は魚市場が始まりです。豊臣秀吉による天下統一後の1615(元和1)年に幕府より魚問屋の称号が許され、長きにわたって、魚市場として栄えました。そして、1927(昭和2)年に「京都中央卸売市場」ができるとともに、今のような様々な商店が並ぶ姿に変わったそうです。
錦市場と地下水の関係
錦市場がこの地に開かれた理由は、人口が密集していた場所であったということはもちろんですが、この付近には良質の地下水があったからと言われています。冷蔵庫がなかった昔は、井戸水でものを冷やしていました。地下水に恵まれたこの地は、魚などの生ものを貯蔵するのに適した場所だったのです。
通りの幅が狭いのが、また丁度良い
錦市場は普段でも地元の人以外に、観光客や修学旅行の学生さんで賑わっています。市場の通りの道幅は3メートルから、広くても5メートル程度で、しかも、多くのお店が商品を道に張り出して並べているので、実際の道幅はもっと狭くなっています。でも、この狭さがとても良いのです。それは、そぞろ歩きで、首を右に左に向けるだけで、魚や京野菜、漬け物に豆腐製品、乾物、そして、おばんざいなど、季節折々の食材を目にし、京都の旬を感じることができるからです。
京都人が愛する市場
普通、市場には威勢のいい呼び声がするものですが、ここ錦市場では、ほとんど聞くことはありません。京都商人は “適正な量を適正な価格で売る” ということをポリシーとするところがあって、あじる商売をしないのです。このあたりが、大阪商人と違うところで、悪く言えば、“お高くとまっている”となりますが、良く言えば、“上品” ということになるでしょうか。確かに、商品の値札の書き方や美味しそうな盛り付けには、京都ならではの粋なセンスが感じられます。
京都の「ほんまもん」が並ぶ錦市場は食材の宝庫であり、京料理を支える台所です。錦市場は、味にうるさい京都人にこれからも愛され続けられることでしょう。
錦市場:京都市中京区錦小路通寺町~高倉間 TEL : 075-211-3882
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