京都市の北西に位置する衣笠山の麓に、白砂の石庭で名の知れた、世界文化遺産にも登録されている「龍安寺(りょうあんじ)」があります。「龍安寺」を「りゅうあんじ」と読む人が意外と多いのですが、正しくは「りょうあんじ」です。
龍安寺は応仁の乱の東軍の総大将であった細川勝元が1450(宝徳2)年に創建した禅宗寺院です。この龍安寺にたくさんの観光客が訪れる理由は、やはり、禅の境地を表現しているとされる“石庭”に魅力があるからでしょう。今回は多くの人の心を魅了する「龍安寺の石庭」の話をしましょう。
15個の石に隠された謎
花の池と称せられる鏡容池(きょうようち)を見ながら進むと、庫裏(くり)があり、さらに先に進んだ方丈の南側に、白砂が敷き詰められた「龍安寺の石庭」があります。
この名高い石庭は正式には「方丈庭園」といいます。方丈の広縁に腰を降ろして眺める石庭は東西の幅が25メートル、奥行きが10メートルの長方形で、その面積は約75坪。畳にすると150畳程の広さがあります。そこに敷き詰められた白砂には、あたかも大海がうねるかのような波模様の筋目がつけられ、そこに15個の石が置かれています。
石は東から5個、2個、3個、2個、3個と置かれていて、その数から「七五三の庭」とか「虎の子渡しの庭」と呼ばれています。七・五・三はめでたい数とされ、祝儀事によく用いられる数で、男の子が3歳と5歳、女の子なら3歳と7歳を祝う「七五三」も、その一例です。
石の配列は一見、無造作に見え、白砂と石以外は何もありません。この殺風景にも思える空間は、日本人が持っている独特の研ぎ澄まされた感性を表し、宇宙を表現していると言われています。
ところで、この15個の石の配置には不思議なことがあります。それは一度にすべての石を見ることができない配置になっているということです。庭のどの位置から眺めても、15個の石のうち、必ず1個は他の石に隠れて見ることができないのです。もちろん、空から見れば当然、15個すべての石を一度に見ることはできますが、この庭が作られた当時は空から見るという発想はなく、本来の庭の見方から逸脱したもので、邪道ですね。
15という数は十五夜、つまり満月に結びつけられ、それは“完全”を意味するとされています。しかし、この世には完全というものは存在せず、ものごとは完成した時点から崩壊が始まるという思想の元、この石庭の作者は15個の石を置きながらも、完全とされる数の15にひとつ足りない14個の石しか見えるように設計したのではないかと言われています。
石庭に施された工夫とは?
このように石庭は極めてシンプルな庭ですが、いろいろと工夫が施されています。
例えば、一見、水平に見える石庭ですが、実際には庭の手前左角から右奥角へ向かって低く作られています。これは排水のためで、傾斜をつけることで雨水などが石庭に溜まらないようにしているのです。
また、石庭を囲っている土塀は、見た目にはお世辞にも綺麗とは言えない色合いをしていますが、これは土に菜種油を入れて練られた油土塀というもので、白砂からの照り返しの防止や風化を防ぐ効果があります。
さらにこの土塀には、ある仕掛けがされています。この油土塀は左(東)から右(西)へ向かうに従って、塀の高さが低くなっています。これは遠近法の原理を取り入れた工法で、これによって視覚的に奥行きを感じさせ、庭全体を実際より広く見せるというトリック効果を生んでいます。
龍安寺石庭の最大の謎
龍安寺の石庭は室町時代に作られたとされていますが、作者が誰なのかが未だにわかっていません。開山の義天玄承(ぎてん げんしょう)、寺の建立者である細川勝元、その実子の政元、絵師の相阿弥、茶人の金森宗和(かなもり そうわ)など、様々な人物の名前が上げられていますが、どれも確証はないようです。そういう中で興味深いのは、左から二番目の石の裏に刻まれていた「小太郎・▢二郎」という2人の名前。1人は小太郎と判読できましたが、もう1人は最初の文字が消えてしまっていて、名前がはっきりしません。
一般的に庭の作庭者は1人とされているので、2人が作庭者である可能性は低いと考えられますが、ただ、石に名前が刻印されていたということは、少なくともこの2人が石庭の何かに関係していた可能性は十分に考えられるのではないでしょうか。いづれにせよ、これだけ有名な石庭でありながら、作った人物が未だにわからないとは、まさに龍安寺石庭の最大の謎と言えるでしょう。
解釈は見る人それぞれ
このように謎の多い石庭ですが、その解釈は見る人に任されています。石庭に対峙する人の自由な解釈によって、石庭は人の心の中でさまざまな形に変化するのです。あなたも石庭に向き合って、語りかけてくる石庭の声を心で感じてみませんか。
龍安寺:京都市右京区龍安寺御陵下町12 TEL:075-463-2216
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